Category Archives: 未分類

2020-06-02

Emacsで部分的な水平スクロールを実現する

Emacsでは toggle-truncate-lines を使えばバッファ全体の水平スクロールが可能です。行の折り返しをやめて左右端で切り詰めて表示できるので、幅の長い整形済みテキストを折り返さずに見たい場合には有効です。

しかしこのモードを使うと当然ながら文書全体で折り返しが無くなってしまいます。文書内の通常の文章は折り返して表示し、整形済みの部分だけ水平スクロールを適用する、そんな器用な機能は見当たりませんでした。

一方Emacsにはテキストプロパティオーバーレイという機能でテキストの一部を非表示にできます。となると、行の先頭部分を非表示にすることで擬似的に部分的な水平スクロールを実現できないでしょうか。

というわけで実装したのがこちら:

misohena/phscroll: Enable partial horizontal scroll in Emacs

使い方は

  1. elispをロードする 例:(require 'phscroll)
  2. スクロールさせたいリージョンで囲む
  3. M-x phscroll-region

これで選択した部分だけ水平スクロール出来るようになります。

ただし、truncate-lines が t (折り返さず表示するモード)のときは加工せずそのまま表示します。Emacs標準の水平スクロール機能を使用してください。 M-x toggle-truncate-lines で切り替えると、それを検出して表示を更新します。

既知の問題:

  • 遅い : すでに適用されているテキストプロパティやオーバーレイを調べて各行の幅を計算する部分やオーバーレイを適用して一部を非表示にする部分がかなり遅いみたいです。頑張って必要な部分だけ(windowで表示する範囲内や編集した部分だけ)更新するようにしてみましたが、それでもまだ遅いみたいです。
  • 複数ウィンドウ対応 : 複数のウィンドウで水平スクロール部分を見たときに表示が乱れることがあります。特にフレームを左右に分割したときに左右の幅が異なる場合は選択している方のウィンドウ幅でレイアウト計算するので、他のウィンドウではウィンドウの幅を超えてしまうことがあります。
  • display, invisibleプロパティの対応形式: 既にdisplayプロパティinvisibleプロパティで加工されているテキストも水平スクロールの対象にできますが、正しく幅を計算できる形式は限られています。単純に文字列に置き換えている場合やただ消している場合、それとrelative-spaceは対応しましたがそれ以外は未対応です。
phscroll.el使用例
図1: phscroll.el使用例

これだけだといちいちスクロールさせるエリアを手動で設定しなければならず面倒なので、次回は自動的にエリアを設定する方法について書こうと思います。

ふと思ったのですが、これとは逆に通常部分のみ折り返すというのは可能なのでしょうか。truncate-lines tで通常部分だけオーバーレイで折り返す。オーバーレイで改行ってできるのかな。でも変更があるたびに改行位置を維持するのは大変そうですね。

2020-05-26 ,

org-modeのHTMLエクスポート時にimgタグのalt属性をcaptionからつける

org-mode文書をHTMLでエクスポートしたとき、imgタグのalt=属性(代替テキスト)はデフォルトで画像のファイル名になります。

<img src="./suica.jpg" alt="suica.jpg" />

altがファイル名というのはなんとも気が利かない感じがします。 altを任意の文字列にする方法は Images and XHTML export に書かれていて、画像リンクの前に #+ATTR_HTML: :alt 文字列 と書きます。

#+ATTR_HTML: :alt おいしそうなすいか
[[file:./suica.jpg]]

一方画像にはキャプションを付けることが可能で、画像リンクの前に #+CAPTION: 文字列 と書くと画像の下に「図1:文字列」のようなキャプションがつきます。

#+CAPTION: おいしそうなすいか
#+ATTR_HTML: :alt おいしそうなすいか
[[file:./suica.jpg]]

キャプションには大抵は画像の内容を要約した文が書かれますから、altもキャプションと同じで良いのではないでしょうか? キャプションがあるのだからそもそも代替テキストは不要なのではないか(画像が表示されないときはキャプションを読めば良いのではないか)という気がしなくもありませんが、一応つけるとしたらキャプションと同じ内容で十分なことは多いでしょう。

#+CAPTION:#+ATTR_HTML: の両方を書くのは面倒ですしミスも発生します。私は先に #+CAPTION: だけ使って文書を書き上げてから正規表現置換で #+ATTR_HTML: を生成していたのですが、生成後に #+CAPTION: を修正したときに #+ATTR_HTML: を修正し忘れることが何度もありました。

というわけでエクスポート時にaltを #+CAPTION: から決めるようにするのが次のコードです。

(defun org-altcaption--get-caption (paragraph info)
  "段落に設定されているキャプション文字列を取得する。

org-html-paragraph関数内の「;; Standalone image.」の部分より。"
  (if paragraph
      (let ((raw (org-export-data (org-export-get-caption paragraph) info)))
        (if (org-string-nw-p raw) raw nil))))

(defun org-altcaption--get-link-parent (link info)
"linkの親要素を取得する。ただし、linkが最初のリンクでない場合はnil。

org-html-link関数内より。"
  ;; Extract caption from parent's paragraph.  HACK: Only
  ;; do this for the first link in parent (inner image link
  ;; for inline images).  This is needed as long as
  ;; attributes cannot be set on a per link basis.
  (let* ((parent (org-export-get-parent-element link))
         (link (let ((container (org-export-get-parent link)))
                 (if (and (eq 'link (org-element-type container))
                          (org-html-inline-image-p link info))
                     container
                   link))))
    (and (eq link (org-element-map parent 'link #'identity info t))
         parent)))

(defvar org-altcaption--link nil)

(defun org-altcaption--org-html-link (old-func link desc info)
  "org-html-linkに対するaround advice"
  ;; Pass link to org-altcaption--org-html--format-image function
  (let ((org-altcaption--link link))
    (funcall old-func link desc info)))

(defun org-altcaption--org-html--format-image (old-func source attributes info)
  "org-html--format-imageに対するaround advice"
  ;; Add alt attribute if link has caption
  (if (and org-altcaption--link (null (plist-get attributes :alt)))
      (let ((caption (org-altcaption--get-caption (org-altcaption--get-link-parent org-altcaption--link info) info)))
        (when caption
          (setq attributes (plist-put attributes :alt caption))
          ;;(message "caption=%s" caption)
          )))
  ;; Call original function
  (funcall old-func source attributes info))


(defun org-altcaption-activate ()
  (interactive)
  (advice-add #'org-html-link :around #'org-altcaption--org-html-link)
  (advice-add #'org-html--format-image :around #'org-altcaption--org-html--format-image))

(defun org-altcaption-deactivate ()
  (interactive)
  (advice-remove #'org-html-link #'org-altcaption--org-html-link)
  (advice-remove #'org-html--format-image #'org-altcaption--org-html--format-image))

org-altcaption-activate で有効化、 org-altcaption-deactivate で無効化します。adviceを使って既存の関数をフックしているのでorgのバージョンが上がると動かなくなるかもしれません(9.3.6で確認)。

こんなこと簡単に実現できるだろう、と思いきや結構難しいんですこれが。Orgの文法のうまくできていないところに片足を突っ込んでいる感じです。

Orgでは個別のリンク一つ一つにプロパティを指定することが困難です。例えば段落中のリンクに target="_blank" 属性を設定したい(リンク先を別のウィンドウで開きたい)場合次のように書くのですが

#+ATTR_HTML: :target _blank
山といえば [[https://www.pref.yamanashi.jp/][山梨県]] と [[http://www.pref.shizuoka.jp/index.html][静岡県]] 。富士山にまたがるこの二つの県は……

この場合最初のリンク(山梨県)にしか target="_blank" は設定されません。次のように書くと当然二つの段落に分かれてしまいます。

#+ATTR_HTML: :target _blank
山といえば [[https://www.pref.yamanashi.jp/][山梨県]] と
#+ATTR_HTML: :target _blank
[[http://www.pref.shizuoka.jp/index.html][静岡県]] 。富士山にまたがるこの二つの県は……

属性はリンクに設定されるのではなく段落に対して設定されます。リンクをエクスポートするときは、リンクを包む親要素(段落)に対する属性指定を調べてそれを適用します。属性はリンクについているのではなく親要素についています。これはキャプションも同じで、親要素を調べなければキャプション文字列は分かりません。さらに属性が適用されるのは段落中の最初のリンクのみ。二つ目以降のリンクには適用されない仕様です。キャプションの場合はスタンドアロンな画像(行内にある画像ではなくブロックを形成する画像)にしかキャプションは付けられない仕様なのであまり気にする必要は無いのかもしれませんが、いちおう二つ目の画像リンクには適用しない方がいいでしょう。

ということをするのが org-altcaption--get-link-parent 関数になります。このロジックは org-html-link 関数(ox-html.el)の中にあるものを拝借しました。

リンクそのものにプロパティを指定する文法の提案をどこかで見かけたような気がするのですがうろ覚え。

おいしそうなすいか
図1: おいしそうなすいか
2020-05-26 ,

org-modeのインライン画像のサイズを制限する(最大サイズを指定する)

前回の続きでorg-modeのインライン画像の気に入らないところその2。画像の最大サイズを指定できないところ。

Org文書中からEmacsのフレームよりも大きい画像へリンクを張ることがあります(特にOrg2Blogを使っていると画像はサーバ側で様々なバリエーションを自動生成するので元画像は大きめになります)。そんなときに org-toggle-inline-images でインライン画像を表示するとフレームから画像がはみ出して目も当てられません。

フレームからはみ出す画像
図1: フレームからはみ出す画像

org-modeには org-image-actual-width という変数があり、ImageMagickが有効なときは指定したサイズへスケーリングできます。しかし全ての画像が指定したサイズで表示されてしまうため、小さな画像も大きく拡大されてしまいます。 #+ATTR_HTML: :width 300 のような属性指定を元にサイズを決める機能もありますが、Emacs内での表示のためだけにこの指定をあちこちに入れるのは面倒です。それに用途によってはエクスポートしたときの属性値はEmacs内での表示サイズとは別のものが必要になるでしょう(追記:そういう用途には #+ATTR_ORG: :width を併用するようです> How do I re-scale inline org-mode images to specific widths? - Stack Overflow)。

あくまで欲しいのは可能な限り元のサイズで表示し、設定した最大サイズを超えた場合のみ縮小して表示する機能です。

org-modeにこの機能が無いのはおそらくEmacsのcreate-image関数にそれをサポートする機能が無いためではないでしょうか。create-image関数は幅を指定して読み込む機能(:widthプロパティ)はありますが指定された幅より大きい場合にのみ縮小するような機能(例えば:max-widthとか)はありません(max-image-sizeという変数はありますが、これは読み込む最大のサイズを指定します。それを超えた画像は読み込まれません!)。

幸い画像のサイズを取得するimage-size関数はあるので自分でサイズを計算して読み込むことは可能です。ただしimage-size関数がどのように実装されているかは確認していません。ヘッダーだけ読み込んでサイズを返すならばそれなりに速い動作が期待できますが、画像全体を読み込んでからサイズを返すようだと二度手間になるので速度は低下することでしょう。

それは覚悟の上で最大サイズを指定できるようにするのが次のコードです。

訂正: ImageMagickを使った読み込みでは :max-width、:max-heightが指定できました!(ImageMagick Images - GNU Emacs Lisp Reference Manual) それらを使用して最大サイズを指定できるようにするのが次のコードです。

(defcustom org-limit-image-size '(0.99 . 0.5) "Maximum image size") ;; integer or float or (width-int-or-float . height-int-or-float)

(defun org-limit-image-size--get-limit-size (width-p)
  (let ((limit-size (if (numberp org-limit-image-size)
                        org-limit-image-size
                      (if width-p (car org-limit-image-size)
                        (cdr org-limit-image-size)))))
    (if (floatp limit-size)
        (ceiling (* limit-size (if width-p (frame-text-width) (frame-text-height))))
      limit-size)))

(defvar org-limit-image-size--in-org-display-inline-images nil)

(defun org-limit-image-size--create-image
    (old-func file-or-data &optional type data-p &rest props)

  (if (and org-limit-image-size--in-org-display-inline-images
           org-limit-image-size
           (null type)
           ;;(image-type-available-p 'imagemagick) ;;Emacs27 support scaling by default?
           (null (plist-get props :width)))
      ;; limit to maximum size
      (apply
       old-func
       file-or-data
       (if (image-type-available-p 'imagemagick) 'imagemagick)
       data-p
       (plist-put
        (plist-put
         (org-plist-delete props :width) ;;remove (:width nil)
         :max-width (org-limit-image-size--get-limit-size t))
        :max-height (org-limit-image-size--get-limit-size nil)))

    ;; default
    (apply old-func file-or-data type data-p props)))

(defun org-limit-image-size--org-display-inline-images (old-func &rest args)
  (let ((org-limit-image-size--in-org-display-inline-images t))
    (apply old-func args)))

(defun org-limit-image-size-activate ()
  (interactive)
  (advice-add #'create-image :around #'org-limit-image-size--create-image)
  (advice-add #'org-display-inline-images :around #'org-limit-image-size--org-display-inline-images))

(defun org-limit-image-size-deactivate ()
  (interactive)
  (advice-remove #'create-image #'org-limit-image-size--create-image)
  (advice-remove #'org-display-inline-images #'org-limit-image-size--org-display-inline-images))

org-limit-image-size-activate で有効化、 org-limit-image-size-deactivate で無効化します。adviceを使って既存の関数をフックしているのでorgのバージョンが上がると動かなくなるかもしれません(9.3.6で確認)。

変数 org-limit-image-size には最大サイズを指定します。一つの数値で指定した場合は幅と高さの最大値は同じになります。ドット対 (width . height) の形で二つの数値を指定した場合は幅と高さの最大値は別々になります。数値は整数の場合はピクセル数となります。浮動小数点数の場合はフレームのサイズに対する比率となります。デフォルトは (0.99 . 0.5) で、幅の最大値はほぼフレーム一杯、高さの最大値はフレームの半分くらいまでとしています。

実装にあたっては org-display-inline-images 関数の途中をいじりたかったのですがうまく分割できないので create-image をフックして org-display-inline-images 経由で呼び出されたときだけ動作を変えています。

正直このくらいのことはorg-mode標準で対応して欲しいなぁという気もします。やってることは結局create-imageに:max-widthと:max-heightを付加することだけなので。フックするためのコードが馬鹿らしいですよね。ハマリどころとしては :width nil はダメってことです。Emacs27は分かりませんが、ImageMagickでは :width nil で :max-widthを指定すると画像が出ません。不要な:widthプロパティは削除する必要があります。

追記: Emacs27対応について。Emacs27ではImageMagick対応がデフォルト無効になるそうです。その代わりスケーリングは標準対応になるとNEWS.27に書いてあります(Windowsでも対応するのか不安……)。image.cやdisplay.texiを見る限り:max-widthや:max-heightも標準対応していそう。なのでimagemagickの有無を判定して処理を変えている部分を少し修正して、無くても:max-width、:max-heightプロパティを付加するようにしてみました。ちゃんと対応するなら新しく追加される関数image-transform-pを使用して判別した方が良いかもしれません。org-mode側ではImageMagickの有無で:widthプロパティを設定するかどうかを判別しているので、org-image-actual-widthや#+ATTR_*でのサイズ指定は今のところImageMagick必須です。